タンパク質の形を通して学ぶ「遺伝情報とは」

赤の女王仮説

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 有性生殖の有利さは、寄生者(寄生虫、ウイルス、細菌など)と宿主の間で恒常的に繰り広げられている戦いにおいて発揮されると考えられています。一般に、寄生者は短期間 に 大量に増殖することで、より速く変異(進化)します。そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招きます。このような場合、有性生殖による組 換えで常に遺伝子を混ぜ合わせ続けることは、寄生者の大規模な侵略を止める効果を果たすと考えられています。ここでいう遺伝子とは、MHCだけでなく、おそら くB細胞受容体やT細胞受容体の遺伝子のエクソンにも個体差(多型)があり、誰もがすべて同じエクソンをもつとは考えられませんので、それも含めて、さまざま な組み合わせで免疫関連の遺伝子をもち合うことが寄生者に対抗する有効な手段と考えられます。絶滅に瀕し、個体数が激減した集団では、近親交配などが増え、遺 伝 的多様性が失われますが、そうした個体群は感染症に弱いことがわかっています。したがって、寄生者との間で絶えることのない戦いを繰り返している生物では、性 が、遺伝子をシャッフルし、寄生者に対する抵抗性を維持するための効果的な仕組みであると考えられているのです。これを「赤の女王仮説」といいます。 ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する「赤の女王」が発した「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という逆説的なセリ フから、生き残る(現状を維持する)ためには多様性を生み出し続けなければならないといったことの比喩として用いられています。


"Now, here, you see, it takes all the running you can do, to keep in the same place." ― Lewis Carroll
図の出典:Red Queen hypothesis @Wikipedia