タンパク質の形を通して学ぶ「遺伝情報とは」

美白化粧品

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 美白化粧品は薬ではありませんが、そこに含まれる美白有効成分は、やはり酵素の阻害を目的として配合されているものが大半です。たとえば、ポーラはルシノール、カネボウ は マグノリグナン、資生堂はWアルブチンと配合成分は異なりますが、標的はすべて同じで、チロシナーゼという酵素です。 肌が紫外線などの刺激を受けると、表皮の一番下にあるメラノサイトが多量にメラニンを生み出し、紫外線から細胞内のDNAを守ろうとします。いわゆる日焼けで す。しかし女性にとっては、このメラニンがシミ・ソバカスへとつながるため、それを何とか回避したいというわけです。そのメラニンですが、チロシンを基質と し、酵素チロシナーゼによって生成されます。したがって、チロシナーゼの働きを阻害すればメラニンの産生を抑えられるわけです。

 下の図は、ポーラ化粧品のホームページから、説明文も含めて、引用させていただきました。筆者が特にこの化粧品に思い入れがあるわけではありません。単に その説明の図が、まさにこの講義の話しに沿ったものだったからです。

シミの元となる、メラニンの発生そのものに鍵をかけるように働く機能。これを、「メラニン ロック機能」とポーラが名付けました。ルシノール®はチロシナーゼと鍵と鍵穴のように合体することで、チロシンとチロシナーゼの合体を防ぎ、メラニンの生成を 抑え、シミ・ソバカスを防ぎます。
https://www.pola.co.jp/special/p/ws/facial-serum/

 ところで、2013年、ロドデノールという美白成分を含むカネボウの美白化粧品を使ったところ、肌に白い斑点ができたという白斑問題が起こりました。これ を 受けて、その原因究明に向けてプロジェクトームを編成し、研究を行った結果、そのメカニズムの一端が明らかになりました。それによると、配合されていた美白成 分ロドデノールは、他の美白成分同様チロシナーゼを阻害する作用をもちますが、チロシナーゼと結合した後、別の物質である「ロドデノール代謝物」が生成物とし て作られることがわかりました。そして、この「ロドデノール代謝物」が過剰に生成されると細胞へのダメージ、つまり「細胞障害」が生じることがわかったので す。

 通常、薬は標的酵素に結合しますが、酵素によって他の化学物質へと変化して、副作用を生じないかチェックされます。しかし、そのチェックが十分行われないま ま、市販されてしまったということでしょう。

 ちなみに、メラニンが合成されるのは、われわれのDNAを紫外線から守るためです。DNAは紫外線によって傷つきやすいため、細胞内への紫外線の侵入をメラ ニンが防いでいてくれるのです。したがって、メラニンを合成することこそ本来の紫外線対策ですが、化粧品の世界では、違った意味合いで紫外線対策という言葉が 使われているようです。