タンパク質の形を通して学ぶ「遺伝情報とは」

味覚受容体

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うま味受容体

 日本料理では出汁によってうま味を増す料理法があり、1908年に池田菊苗がグルタミン酸がうま味成分であることを発見、その後「味の素」として発売さ れ たこともあって、うま味は日本人にとって馴染みのある味覚です。一方、西洋料理では、うま味を増す調理法に意識が向けられず、日本人科学者が主張するうま味という味覚の存 在は 長い間懐疑的に捉えられていました。ところが、2000年に、味細胞にグルタミン酸受容体が発見されたため、うま味の実在が世界で認知されるようになりました。 英語にはそれを表す単語がなかったため、umami が国際語として定着しました。

苦味受容体

 甘味の受容体は、今のところ1種類しかみつかっていません。これに対して苦味は、人間では36種類の苦味受容体がみつかっています。ただし、実際に機能し てい るのは25種だけで、残りの11種は偽遺伝子となっています。

 苦味受容体遺伝子は、4億5千万年前からほとんどの脊椎動物へと派生しています。ヒトに苦味を感じさせる化合物 (植物に含まれるアルカロイドなど) への拒否反 応は他の動物でも一般的にみられるため、毒性化合物の摂取を避けるための反応だとされています。魚の苦味受容体の数が3〜4種であるのに対し、犬が19種、牛 が29種、ネズミが41種と異なり、苦味のある化合物への感受性も多くの種で異なっています。これは生態学的地位および食物選択の違いの結果であると考えら れ、苦味はあるが重要な栄養素が含まれる植物を摂取している動物ほど苦味受容体遺伝子が多いという事実は興味深いことです。

 ヒトに関する研究では、ある種の環境の中では苦味に対する拒否反応がなくなることが示唆されています。例えば、適度の苦さのコーヒーや紅茶、ビールなどのア ルコール飲料が好んで飲まれることが挙げられます。とはいえ、ほとんどの場合、苦味は拒絶され、特に乳幼児や子どもにはその傾向が強くみられることが分かって います。子どもの苦味に対する強い拒絶が、進化の過程で獲得された用心深さによるものかどうかは議論の分かれるところのようですが、もしかすると、子どもには 毒性のある苦い化合物の摂取について特有のリスクがあるためかもしれません。

 ついでながら、酸味は腐敗物のチェックのために進化の過程で獲得した味覚で、苦味と同様、そうした食物を感知し、忌避することで生存率を上げたと考えられて います。これに対して、甘みはエネルギー源であるブドウ糖の有無、うま味はタンパク質の成分であるアミノ酸の有無を判断するために必要な味覚で、それを好まし いと思うことで摂取を促 す方向に作用し、生存率を上げたことになります。塩分は、少量であれば必須ですが、大量となると害があるという微妙な味覚です。高濃度の塩味については苦味と 酸味の味覚がその受容に関与していることで忌避されることを示唆する研究結果が報告されています。

脂肪酸の味覚は第6の基本味か?

 こうした進化の観点からすると、脂質も重要な栄養源ですから(飽食の時代にある現代人は取りすぎに対する警告を受けていますが…)、受容体が存在し、好ま しい味と認識する仕組みがありそうです。実際、霜降りの肉に代表されるように、脂質の多い食物にはおいしいものがたくさんあります。しかし、基本味に脂質に 関するものはありません。ところが、最近、脂質に関する受容体の存在を示唆するデータが出てきています。

 食べ物に含まれる油脂の存在を強く意識はできませんが、あればより好んで食べたくなります。私達はどうやって油脂の存在を知るのでしょうか?九州大学五感 応用デバイス研究開発センターの安松(中野)啓子特任准教授、二ノ宮裕三特任教授らの研究グループによって、他の味とは独立して脂肪酸の味を伝える神経が鼓索 神経の一部に発見されました。これは甘味、苦味、うま味、塩味、酸味の5つの基本味に加え、脂肪の味が6番目の基本味である新たな証拠となります。(2019 年2月5日九州大学プレスリリースより)