タンパク質の形を通して学ぶ「遺伝情報とは」

生物とは自己複製子の生存機械である

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  自己複製子とは何か。ドーキンス著『利己的な遺伝子』(1976:みすず書房) より関連する部分を抜き出してご紹介します。皆さんは、これにどんな感想をもたれるでしょうか?

 3, 40億年まえに海洋を構成していたと考えている「原始のスープ」に(中略)あるとき偶然に、とびきりきわだった分子が生じた。それを自己複製子とよぶ ことにしよう。それは(中略)自らの複製を作れるという驚くべき特性をそなえていた。これはおよそ起こりそうもないできごとのように思われる。たしかにそうで あった。(中略)しかし、起こりそうなことと起こりそうもないことを判断する場合、われわれは数億年という歳月を扱うことになれてい ない。もし、数億年間(次 から次とさまざまな分子が合成されるということが繰り返されれば、それは起こりえたであろう)。(中略)しかもそれはたった1回生じさえすればよかったのだ。 (中略)こ の自己複製子をとりまくスープの中には、これら小さな構成要素がふんだんにただよっている。(中略)(自己複製能をもったその分子が機能)すると、2つの自己複製子ができ ることになり、その各々がさらに複製をつくりつづけることになるのである。

 (中略)自己複製子は生れるとまもなく、そのコピーを海洋じゅうに急速に広げたにちがいない。このため小形の構成要素の分子は貯えが減り、他の大型分子も そ の形成量がしだいに減っていった。(中略)このようにして、同じもののコピーがたくさんできたと考えられる。しかしここで、どんな複製過程にもつきまとう重要な特性につい て述べておかねばな らない。それは、この過程が完全ではないということである。誤りがおこることがあるのだ。(中略)誤ったコピーがなされてそれが広まってゆくと、原始のスープは、すべてが 同じコピーの個体群ではなくて、「祖先」は同じだが、タイプを異にしたいく つかの変種自己複製子で占められるようになった。タイプによって数にちがいがあっただろうか?たぶんあったであろう。あるタイプは本来的に他の種類より安定で あったにちがいない。(中略)このようなタイプのものは、スープの中に比較的多くなっていったはずである。(中略)ある自己複製子には、個体群内に広がってゆ く上でさらに重要であったにちがいないもう一つの特性があった。それは複製の速度、すなわち「多産性」であ る。(中略)スープはさまざまな安定した分子、すなわち、個々の分子が長時間存在するか、複製が速いか、あるいは複製が正確か、いずれかの点で安 定した分子によっ て占められるようになったにちがいない。

 (中略)おそらく自己複製子は、化学的手段を講じるか、あるいは身のまわりにタンパク質の物理的な壁をもうけるかして、身をまもる術を編みだした。こうして 最 初の生きた細胞が出現したのではなかろうか。自己複製子は存在をはじめただけでなく、自らのいれもの、つまり存在し続けるための場所をつくりはじめたのであ る。生き残った自己複製子は、自分が住む生存機械(survival machine)を築いたものたちであった。

 (中略)彼らはあなたの中にも私の中にもいる。彼らはわれわれを、体と心を生みだした。そして彼らの維持ということこそ、われわれの存在の最終的論拠なの だ。 彼らはかの自己複製子として長い道のりを歩んできた。今や彼らは遺伝子という名で歩きつづけている。そしてわれわれは彼らの生存機械なのである。

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 ドーキンスは、自己複製子こそ生命の本質であり、われわれのこの複雑な体は、そしてわれわれが示すさまざまな本能行動さえもすべて、次の世代へその自己 複製子をより確実に渡すことができるように進化してきた、そうした観点から生命を理解すべきだと主張しました。『利己的な遺伝子』は、動物たちが示す本能行動 がいか に進化のなかで確立されてきたかを説く一般読者向けに書かれた名著で、出版以来多くの議論を巻き起こしてきました。社会科学に通じる内容も多く、一度は読んで みる価値のある本だと思います。(第32回の講義で詳しく説明する予定です)