タンパク質の形を通して学ぶ「遺伝情報とは」

タンパク質立体構造の表現方法

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 タンパク質はアミノ酸がつながった紐状分子です。しかも固有の立体構造をもちます。現時点では立体構造を構成原子が見えるほどの分解能をもって直接見ることのできる顕微 鏡は存在しません。そのため、X線結晶構造解析や核磁気共鳴といった方法を使って立体構造を間接的に測定し、そのデータから計算によって立体構造を導き出しま す。そして、そうして得られた立体構 造データをもとに、コンピュータ上にわれわれが観察できる形で描きだすのです。そのとき、立体構造をグラフィック表現するいくつかの方法があるため、ここで紹 介しておきましょう。

 まずは各構成原子を球で表したものです(ただし、水素原子は一般に省略されます)。空間充填模型 space-filling model と言います。各構成原子の占める体積を考慮した、より現実に近い表現です。この講義では「鍵と鍵穴モデル」を用いた説明が頻繁に現れますが、それにはこの表現がもっとも適 しており、これからしばしばお目にかかることになります。しかし、何となく変な形をした球の塊といったイメージで、タンパク質それぞれの立体構造の特徴をわれ われが捉え にくいという難点があります。また、タンパク質は、アミノ酸がつながった紐状の分子であるということがこれからはまったく伝わってきません。

ニワトリの卵白にあるリゾチームというタンパク質の立体構造(以下の図も同様)
各球は構成原子を表し、それぞれの原子の大きさがわかる表現方法
左の図では、原子の種類によって色分けしている。炭素:グレー、赤:酸素、青:窒素、黄:硫 黄
右の図では、20種類あるアミノ酸の種類によって色分けしている。

 次が、棒球模型 ball-and-stick model とよばれる表現方法で、構成原子を表す球の大きさを小さくし、その代わり原子と原子をつなぐ化学結合を棒で表して、化学構造を分かりやすくしたものです。しかし、あいかわ らず棘の森といった感じで、われわれが立体構造をどう捉えたらいいか、困惑するような表現です。


各原子を小さな球で、化学結合を棒で表現している。タンパク質全体の大きさは
最初の図と同じで、見ている向き、色分けも同じある(以下の図も同様)。

 そこで、細部の情報は捨象して、アミノ酸の空間的なつながり、つまり紐状の分子であることを前面に押し出した表現方法が次のモデルです。トレース模型 chain-trace model とよばれます。こうすると、紐、すなわち1本のポリペプチド鎖の空間的な形がはっきりと見えてきます。相変わらず、奇妙さは変わりませんが、それぞれのタンパク質の形の個 性が際立ってきて、この形こそ、このタンパク質固 有の形だと認識できるようになります。

 左の図では、着色した領域だけに着目すると、幾何学的な規則性をもっているように見えると思います。実は、タンパク質の立体構造の中には、部分的にαヘ リックス、βシートとよばれる規則構造がみられます。

αヘリックス(左)とβシート(右)
これらの構造は、立体構造を三次構造とよぶのに対して、二次構造と呼ばれる。
下の図が棒モデルで表現したもの、上の図がそれをカートゥーン・モデルで表現したもの。

 そこで、われわれが立体構造の特徴を認識できるように、この2種類の規則構造をらせん状のリボンや矢印型の板で表現する方法が開発されました。これはカー トゥーン模型 cartoon model とよばれます(cartoonとは漫画のことです)。実は多くの教科書は、立体構造を認識し、他のタンパク質との類似性などを記述するうえで便利なことから、この表現方法 を好んで使っています。ただ、こうした背景を知らず、これがタンパク質の立体構造です よ、と言われるとおそらく誤解を生むことになると思い、敢えてこのページを作りました。

カートゥーン・モデル
左の図では、αへリックを赤、βシートを黄色、それ以外を白で表現しています。
右の図ではアミノ酸の種類によって色分けしています。

 ここまではタンパク質の立体構造という3次元情報を2次元の図で表現しましたので、われわれが得る情報としては不十分といわざるを得ません。しかし実際に は、立体構造を表示するソフトが開発され、無料で提供されており、表示された立体構造を回転したり、拡大・縮小したりしながらして視点を変えながら、立体構造 に関するより多くの情報を得ることができるように工夫されています。ここでは最後に、Wikimedia CommonsにあったアニメーションGIFをご紹介しておきます。こうするだけでも、より立体的な視覚的情報が得られるという実感が湧いたのではないでしょうか。

酵素 GLO1 (PDB ID: 1BH5)