1990年、アメリカの旗振りのもと、国際的協力によってヒトのDNAの塩基配列のすべて(これをゲノムといいます)を解読するプロジェクトがスタートしました。そし て、ワトソンとクリックがDNAが遺伝子の本体であることを示唆した論文を発刊してからちょうど50年目にあたる2003年に完了しました。
ちなみに、そのヒト・ゲノム・プロジェクトで解読されたものはいろいろなヒトの寄せ集めで、特定の1個人のものではありませんでした。同じヒトといっても平均して 0.1%ほどは塩基配列が異なるとされていますから、ここで解読された“ヒト“の塩基配列は皆さんのそれとまったく同じ、というわけではないのです。しかもヒ ト・ゲノム・プロジェクトでは、1人相当分の塩基配列を解読するのに13年を費やし、莫大な研究費と多くの研究者が必要でした。しかしその後の技術革新によ り、現在では、10万円前後で特定の1個人のゲノムを解読できるようになりました。みなさんが生きている間には、きっと、皆さん自身の全ゲノム解読が行われる の ではないでしょうか(すでに世界では百万人を超える個人の全ゲノム解読が行われたと推定されています)。塩基配列だけなら、ちょうどCD 1枚分程度の情報量です。カードか何かで携帯し、医者にかかったときに提示すると、各自の遺伝的個性を反映した医療、パーソナル医療(テーラーメイド医療とか、オーダーメ イ ド医療などともよばれる)が受けられる時代がすぐそこまで来ているのです。