エントロピー増大の法則とは何?と思い、いろいろ調べると、必ず出てくるのが次のような喩えです。
部屋を締め切って放置しておくと、部屋の中はどんどん散らかっていきます。しかし放置しておくと部屋が自然に綺麗に整頓されていくなんてことは起こりません。この
ようにエントロピー増大の法則は日常生活でも現れるくらい一般的な自然法則です。
しかし、この資料の最初に述べたように、エントロピー増大の法則とは、熱運動によって微視的状態数の多い巨視的状態への遷移として定義されています。上の喩えで 言えば、部屋を締め切ったまま何億年か経ち、本を構成していた分子がばらばらとなり、部屋の中に浮遊している、これがエントロピー増大で引き起こされる状態変 化で す。本が乱雑に置かれたくらいでは、それらを構成する分子の微視的状態はほとんど変わっておらず、エントロピーが増大したとはとても言えません。そもそも散らかっ たのは、分子の熱運動ではなく、散らかした実体が存在しています。したがって、部屋の散らかりはあくまで喩えであって、エントロピー増大の法則の具体例という わけ ではありません。
一方、本そのものの微視的状態の変化は考えず、本が整頓されて置かれた状態と、本がばらばらに置かれた状態とを比較すると、後者の方が場合の数は圧倒的に多く、 場合の数の少ない状態から場合の数の多い状態へと遷移したという意味でエントロピーが増大したと言いたくなります。しかし、物理学でいうエントロピーとは違っ てきます。こちらは情報理論的なエントロピーという考え方です。
このように、物理学的エントロピーと情報理論的なエントロピーははっきりと区別しなければいけない側面がある一方、両者が密接に関わっている側面もあり、 その解釈はなかなか難しいのですが、そうした話題を次回の講義では取り上げたいと思います。