エントロピー・多様性・複雑系

暖かい日ほど洗濯物はよく乾く

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 コップに水を入れ、放置すれば、沸騰させなくても、常温でも水は徐々に蒸発していきます。液体の水分子は常に活発に動き回っており、水面近くの分子はその勢いで空気 中に飛び出すことがあるからです。逆に、空気中の水分子が液体に衝突して捕らえられ、液体に含まれることも起こりますが、 その量が飛び出していく量よりも少ないため、液体の水は減少していくことになります。

 温度が高いほど水分子の動きは速くなるので、蒸発も盛んになります。曇りより晴れの日の方が洗濯物が良く乾くのは、一つには、洗濯物に含まれる水が蒸発す る確率が気温が高いほど高くなるからです。もちろん、風や湿度も大きく影響します。


 ところで、上図の右、水の入ったコップが、密封された容器や部屋の中に置かれた場合には、様子 はかなり異なってきます(右図)。上図のように ”開かれた” 世界にいる場合には、蒸発した水分子は広々とした世界に飛び去っていくでしょうが、右図のように "閉じられた" 世界にいる場合には、蒸発した水分子は、そこに留まっていることを考慮しなければなりません。水蒸気になった水分子が増えると、液体の水に衝突し、捕らえられ、液体に戻る 分子(凝縮という)も増えてきて、ついには、蒸発する分子と凝縮する分子が釣り合うことになります。こうなると、相変わらず、ミクロには蒸発と凝縮は起こって いるですが、マクロには、液体と気体の量は変化しない平衡状態として観察されることになります。この釣り合ったときの蒸気の圧力を 飽和蒸気圧 と呼びます。

 飽和蒸気圧の値は、温度に依存します。温度が上がるにつれ、水の蒸発速度も大きくなり、蒸気圧 も上昇して凝縮速度も大きくなり、両者が釣り合う蒸気圧の値も大きくなります。簡単な数式では求められませんが、飽和蒸気圧の温度依存性は下図のようになって います。
飽和蒸気圧の温度依存性。沸点(100℃)で1気圧になる
図の出典:飽和水蒸気量 @Wikipedia

 ちなみに、湿度とは、ある気温における飽和水蒸気圧に対する実際の空気の水蒸気圧の比として定 義されています。上図の閉じられた系において、液体の水と水蒸気が共存して平衡状態にある場合、湿度は100%となりますが、普段の生活空間のような開かれた 系では、さまざまな値をとることになります。湿度が高いほど、実質的な蒸発量は減少し、気化熱を奪う量が減るため、日本のような湿度の高い夏では体温調節がう まくいかず、熱中症の危険性が高まることになります。環境省が発表している暑さ指数は、湿度、気温、熱輻射を考慮して算出していますが、温度よりも湿度により 大きな重みがかけられています。