【基準振動解析】脂質を除きタンパク質のみの系で計算。(中段)Mode No. 1、
(下段左)Mode No. 3、(下段右)Mode No. 6. 振動周期はモードにより異なるが、
便宜上、同じ周期で表現している。
【図の説明】チャンネル・タンパク質は6量体で、各サブユニットを色分けした。
(上段)PDBデータによる静止画像で、中央の穴に存在する脂質を白のBall&Stick図で
表示している。左はペリプラズム側から見下ろした図、右は細胞膜の断面に沿った図で、
チャンネル・タンパク質も中央部分での断面図となっている。尿素の出入り口を矢印で示した。
(中段)Mode No. 1 の振動をサイドから見た図(左)と上から見た図(右)
(下段)Mode No. 3 (左)とMode No. 6 (右)の振動をサイドから見た図。
サイドから見た図はタンパク質の中央付近での断面図。
【メモ】胃がんを引き起こすことで知られるヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)は胃の中の酸性環境下でも生きることができる。ピロリ菌は尿素 (urea)がないと酸性条件下では生き延びることができない。胃液中には低濃度で尿素が含まれているので、ピロリ菌は胃の中にいる時この尿素を利用して細胞 に侵入してくるあらゆる酸を中和している。この中和過程では2種類のタンパク質が協力して働く。まず、酸性条件下ではプロトン開閉型尿素チャネルが開いて尿素 が細胞内に入れるようにする。次に細胞内に入った尿素は、ウレアーゼ(urease)によって二酸化炭素とアンモニウムイオンに分解される。ここでできたアン モニウムイオンが酸を中和する。(PDBj 今月の分子 158 プロトン開閉型尿素チャネル 参照)このチャンネル・タンパク質はピロリ菌にとって必須であり、しかもピロリ菌特有であることから、その 機能を阻害することでピロリ菌を死滅させ、ひいては胃がんを防ぐことができる、しかも副作用の少ない薬が開発できる可能性があり、標的の一つとなっている。
主引用文献: Cui, Y., Zhou, K., Strugatsky, D., Wen, Y., Sachs, G., Zhou, Z.H.,
Munson, K.
pH-dependent gating mechanism of theHelicobacter pyloriurea channel
revealed by cryo-EM.
Sci Adv, 5:eaav8423-eaav8423, 2019.